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私の好む情景―鬼六の小説からの引用2

肉体の賭け』(1976~8)より

手形の書替えの約束を僕が破ったので、恐らく奥さんは腹の煮えくりかえる思いになってはりまっしゃろ。そやけどさっきもいうたように、身体を男に任したら、手形を書き替えてもええという法律はありまへんさかいな」


ヒロインを騙して身体をいたぶっても、ワルモノどもは決してヒロインを救済する気はさらさら無いのだ。常々私はヒロインの窮地に颯爽と現れ、ヒロインを救出するヒーローの存在がじゃまで仕方がなかった。鬼六の小説にはヒロインを救出するヒーローは現れないのだ。

「でも、私、祖父や両親が精魂を傾けて築き上げたあのお店を、あなたたちの自由にはさせない。絶対にさせませんわ」


鬼六のヒロインは、あくまでも上品に、しかも精一杯、「冷笑するような口調で」言い返すのである。

強がりいうのはやめなはれ、奥さん。この世はすべて金を持った力の強い者が勝つことになってまんのや」


品のよい美女はますます可憐になり、下劣な悪党はなお一層いやらしく描かれることになる。
こういう金の使い方をしてみたいものである。
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